2013年10月26日土曜日

大名かわいい

日本語学習者に説明するのが難しい表現ってあるよね。

「かわいい」という表現は、今やファッション界などで海外に輸出されて、単に辞書に出てくる下記の意味をあらわす語ではなくなっている。
eng. cute
rus. милый
suo. söpö
逆に言うと、kawaiiという語となって、使用する場面が限定されている。
それは、「かわいい」という単語で表現できる価値観は、他国の言語では、一言で説明するのが難しい、ということだ。
では、日本語ネイティブである私は、この単語の意味を適切に説明できるでしょうか?
正直、これをうまく説明することは、私にはかなり難しい。
それどころか、よく使う単語なのだから、感覚的にはわかっていると思っていても、一歩踏む込むと本当に感覚をつかんで使っているのか怪しい部分さえ出てくる。
例えばこんな質問されたとする。

Q. Why the phrase "kawai-sou" means "pity" although the meaning of kawaii is "cute"?

「かわいい」と「かわいそう」。
同じ語幹をもつふたつの言葉が、こんなに異なった意味を持っているのはなぜか?

~そう
→「そうだ」
助動詞
1.
動詞・助動詞などの連用形、形容詞・形容動詞などの語幹に付き、…様態の意を表す。
「…という様子だ」
「今にも…するような様だ」
eng. it seems..., it looks (like)
例:雨が降りそうだ/彼はいかにも丈夫そうだ/自信がなさそうだ
eng. It looks like rain. He looks healthy indeed. He doesn't sound too confident.

2.
活用語の終止形に付く。伝聞の意味をあらわす。
eng. They say that ..., I heard that ...
例:雨が降るそうだ/彼は丈夫だそうだ/自信がないそうだ
eng. They said it was going to rain. I heard that he is healthy. He said he had no confidence.

この理屈から行くと、

「かわいそうだ」
なら、形容詞「かわいい」の語幹に「~そう」が付いているわけだから、
「いかにもかわいいようだ」というような意味になるはずだし、
eng. It looks like cute.

「かわいいそうだ」
なら、終止形だから、
「かわいいということだ」というような伝聞になる。
eng. They said she was cute. / I heard that she was cute.

このうち、後者の「かわいいそうだ」の方は、理屈通りの意味になるからいい。
しかし、「かわいそうだ」の意味は実際には全然違ってくる。

かわいそう
形動詞
同情の気持ちが起こるさま。ふびんに思えるさま。

英辞郎だと、
poor, pitiful, sorry, pathetic
なんかが出てくる。

「同情」というと、辛い目にあっている人の身になって、辛苦の情を共有する感じだからまだしも、不憫とか、英語のpitifulとかpatheticとか、人を下に見てるような、いけすかない表現だ。
「かわいい」って言葉が、持つ好意的なイメージとは明らかにかけ離れている。

かけ離れている…本当に?
私たちが「かわいい」って口にする時、「キレイ」とか「美しい」って表現に含まれているような尊敬の念というか、畏敬の念は含まれていないんじゃない?
好意を表す言葉ではあるけれど、それは、幼い子供(や子供のような大人)に対してだったり、雑貨やアクセサリのような小さいモノだったり、不完全で親しみのあるキャラクタのことを「かわいい」って呼ぶ時、本当に全然下に見ているような気持ち、含んでないって言えるかな?
「守ってあげたいよなカワイイ子供」とか言って、自分があたかもその子供のこと守ってあげられる力があるってことでしょ、それって、子供を下に見てる感じ、全然ないのかな?

そんなこと考えてると、「かわいい」って、結構失礼な表現なのかな?とか思えてくる。
でもさ、じっさい、好きな人とかに「かわいいね」とか言われても、腹立ったりはしないよね…
うーん…

と、考えているうちに、ふと、古語のこと思いだした。
「いとをかし」が笑えるって意味じゃなくて、趣があるって意味だったのと同じで、「かわいい」も、古語だと違う意味だったような。

さっそく調べてみたら、ウィキペに”「かはゆし(かわゆし)」は、「いたわしい」など相手の不幸に同情する気持ちを指す。”とあるではないか!!
やはり。

さらに、語源由来辞典は更に詳しい。
かわいいは…「かほはゆし(顔映ゆし)」→「かははゆし」→「かはゆし」という変化をした語と考えられている。「はゆし(映ゆし)」は「まばゆし(目ばゆし)」が「目を開けていられない」ことを表すように、身体に変調をきたすような感情や自体を示す語である。
なるほど!
目を向けていられないくらいの感情が沸き上がってる感じなのね。
そりゃ、愛くるしくて仕方ない時も、悲惨過ぎる時も、直視できない気持ちになるの、わかるわ!

と、ここまで考えて、あいや、またれよ。と思う。
悲しくて、辛くて目をそむけるのは、海外の方々もあると思うのよ。
じゃ、愛おしすぎて直視できないあの感じはどうなのかな?

あ、でも西洋の宮廷作法で、身分の高い人を見つめてはいけない、みたいなのがあったような。
もしかして、あの、恐れ多くて顔も上げられない感じ、愛おしすぎて直視できない感じに通じているのでは??

そう言えば、時代劇とかでもよく、
「オモテをあげーい」
みたいなセリフが出てくるよね。あれも、もともと、身分の高い人を直視したら目がつぶれる…みたいな感覚が、武家の作法に転じたものなんじゃない?

してみると、偉いお奉行様も大名様も、直視できないかわいい存在ってことだな。
というわけで、日本語学習者に冒頭の質問をされたら

You can call a person, whom you are not be able to see directly from any reason, "kawaii".
So the king, queen, "daimyo", the people who are pathetic or miserable, beautiful girl -- they are all "kawaii".

って答えればいいね。


…あれ、なんでこんな結論になった?