2011年7月20日水曜日

サムライくんとナデシコちゃん

なでしこJapan優勝おめでとう!

ということですが、男子チームの『サムライJapan』に輪をかけて、『なでしこ』という言葉に違和感を覚えている人は多い様子。

私の勝手な予想としては、国際試合で、海外の人にも通じる日本語ともなれば『ハラキリ』『ゲイシャ』はさすがに不味いってくらいのことで、浮上してきた呼称なのかなという気がする。

それにしても、戦いを生業とする『サムライ』はまだしも、『なでしこ』とはこれいかに。女性を形容する単語であるということ以外、球技、戦い、スポーツマンシップ、チームワーク等々、女子サッカーから連想されるイメージとは全く被ってこない気がする。

同じく国際進出してる語なら『くのいち』の方がまだいいような...

というのはおいといて。
そもそも『なでしこ』って何かしら?って話である。

着物て黒髪オカッパの物静かな女性を直ぐにイメージしてしまうのは、中森明菜か、有閑倶楽部の白鹿のりこのせいであるが、どういう女性かといった定義は曖昧模糊としている。

大辞泉によると、
大和撫子
1ナデシコの別名
2日本女性の清楚な美しさをほめていう語

とのこと。
美しさ、というのは極めて曖昧な表現ではあるけれど、緑の中で真摯にボールを追う選手達の姿は確かに美しいなあ、と、納得がいく。

スポーツにおける美しさとはなんぞやいう問題はとりあえず今は考えないことにする。

さて、美しさはわかったが、今度は『清楚』が分からない。よく使う表現のような気がするのに、いまいちなんとも説明できない。

大辞泉
清楚
[名・形動] 飾り気がなく、清らかなこと。また、そのさま。

英辞郎
neat and clean
tidy

なんと、neat and cleanとは。これだと、清楚と言えば、日本全国の清掃のおばちゃんのことみたいだ。もちろん清掃のおばちゃんの中には清楚な人が沢山いるだろうが、それは彼女が清掃のおばちゃんであるからでは決してない。

しからば、清楚の髄はなんだろう。
ここで、単に清楚という言葉を検索してみるとヒットする文面の殆どが性的趣向を話題にしていることに気付く。

つまり、少なくとも現代においては、特にネット上では、清楚とは、飾り気がなく清らかであることによって性的な魅力を持つ女性を形容する言葉のようだ。

このように考えると、サムライもなでしこも、(同性愛的なことを考えに入れなければ)どちらも男性からの表現と言えるきがする。

ちなみにサムライは男性による男性のための美徳を形容する言葉であって、女性側からの視点ではない。

女性側からの形容はそもそも男社会の中で育った日本語の中には少ないのかもしれないけれど、近年では『ソフトマッチョ』とか『メガネ男子』『ヒゲ男子』とか、例を挙げればきりがないほどの繁殖を見せている。

しかしもちろん、昔からある言葉にも、女性目線で男性を評する言葉があるはずだ。

ここでばっと思い付くのがこれ。
『どら息子』

...どら息子の『どら』って何者?
もちろんドラえもんのドラでもドラゴンボールのドラでもありませんよね。

この、『どら』って息子以外にくっついているの、見たこと無いなあ。のら猫とかの『のら』と、関連付ける説もあるようですが、サムライと同じように社会的ボジションを背景に作られた言葉であるのに、全然雰囲気が違う。

社会的な責任を期待されながら、未熟である青年を、母親や近所のおばちゃんたちが暖かく見守っているような、そんな視点を感じさせる言葉だ。

社会的責任を期待されるのが息子ばかりではなくなった現代では、芝居のなかでしか聞かない言葉になりつつあるように思える。

一方、なでしこの説明から出てきた『清楚』ということば、男性目線から作られた言葉かもしれないけれど、『清楚な男性』とか『清楚な男』で検索しても思いの外ヒットするするのに驚いた。
自分はそのような表現を使ったことはないが、考えて見れば、知人の中にも、この形容が当てはまる人がちらほら。

言葉の使われ方は日々変わって行くのだなと実感させられる。

人間の細胞は三ヶ月を周期に全て入れ替わるので、三ヶ月前の自分と現在の自分とでは全くの別人であるというようなことを聞いたことがある。

言語にも同じことが言えるのかもしれない。無くなることもなくずっと使われてきて、同じ単語のように見えても、三ヶ月前と同じ意味で使われているとは限らない。
言葉も生きている限り変容し続ける。

今回のWC 優勝で、なでしこという単語に女子サッカーという意味が逆輸入されたことは間違いない。

すでに私は今日『なでしこギャル』という言葉を目にした。ここでいう『なでしこ』は清楚とかいう意味では勿論なく、サッカー好きのとか、サッカーのファッションを取り入れたというような意味のようだ。

このままさらにおしすすんで、なでしこという言葉が、サムライの男性美学を表すように、強く清く美しい女性の美学を表す言葉になっていったら面白いなあ、と思ったりして。

2011年7月16日土曜日

絶滅危惧語

漢字だけ見るとお経の一節みたいだなあ。
『キグゴ』ってなんか『ハグキ』みたいな響きだなあ。

今日は久し振りに会社の人達と二次会にまでかかる飲み会でした。本当に久しぶりだった。もともと週末なんてあって無いような会社だけれども、数年前に比べると金曜日の飲み会って、やっぱり減ったな、と思う。

そう考えてみると『ハナキン』て言葉も滅多に聞かなくなった気がする。

十数年前、週休二日制の導入によって土曜日が休日として扱われるようになり、突如脚光を浴びることになった花の金曜日、略して『ハナキン』。

土曜日一日潰しても、日曜もまだ休日。だから金曜日には、一週間の終わりを祝して、次の日潰す覚悟で遊び倒す。

そんなハナキンも、職種やニーズの多様化、経済状況の悪化から、民間企業の間では衰退の一途を辿っていた。

そんな時節に到来した、原発事故。使用電力の偏りを解消すべく、公共機関や大企業が休みの配置をずらしはじめた。

今の日本で、『土日はみんなでお休み』という感覚を共有し続けることは、ほぼ不可能だ。

『ハナキン』は今年一番使用の減る言葉の一つに違いない。

毎年の瀬には流行語大賞というものが発表され、大いに注目を集めるが、死に行く言葉が顧みられることはあまりない。

死語なんて言い方をするわりに、死んでしまった言葉はヒトのように弔われることも葬られることもなく、亡霊のように酒の席なんかをさ迷うだけだ。

滅びることも出来ないそんな言葉たちを、せめてレッドデータに加えていってはどうかしら。

今年認定の絶滅危惧語:

ハナキン